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 第10回大会のご報告

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アクティブ・ラーニングと言葉の力
 本年,第10回を迎えた「ことばと学びをひらく会」。「良き学び手を育てるためには,まず自らが生涯にわたって学び続ける教師でありたい」を合い言葉に,10年にわたって国語教育のあるべき姿を模索して参りました。新しい学習指導要領の告示を前に,そのキーワードである「アクティブ・ラーニング」と,国語科において育成すべき「言葉の力」について,改めて見つめ直したいと思います。
10年間の歩みとこれから



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10年間の歩みとこれから
 「ことばと学びをひらく会」は,おかげさまで今回をもって,第10回を迎えることができました。ご参加いただいた先生方に心より感謝を申し上げます。
 この会が始まった10年前は,現行の学習指導要領が告示される前年でした。そして,明年は,次の学習指導要領が告示されます。「ひらく会」も学習指導要領の一サイクルを経験したことになります。
 言語活動の充実が叫ばれ,それをいかに学校現場で実現していくかについて検討した第4回まで,東日本大震災を受け,改めて「言葉の力とは」という問いに取り組んだ第5回,言語活動の充実に取り組んだ結果見えてきた課題について議論した第6回〜第8回,さらに昨年,第9回は,アクティブ・ラーニングというホットなワードをいかに考えるか,学び合いました。
 次の学習指導要領に向けた議論はさらに進んできています。本日は,こういったことも意識しながら,これからの国語教育について,ともに学び,議論してまいりたいと考えております。

次期学習指導要領に向けた議論の背景  
次期学習指導要領に向けた議論の背景
 この後のシンポジウムの議論に向けて,私からは,「アクティブ・ラーニング」をはじめとする学習指導要領の議論がどのように進んでいるのか,その背景やねらいも含めてお話しさせていただきます。
 まず,前提となる社会の状況に触れておかなければなりません。昨年8月の教育課程企画特別部会「論点整理」では,現行指導要領のときにも指摘されていた「知識基盤社会」が,グローバル化が加速する中でさらに進展しているとされています。これにより何が起こるのかというと,より予測困難で変化の激しい社会になるわけです。過去を振り返れば,「民主国家」とか「文化国家」といった「こういう社会を目ざしたい」という明確な方向性をもっていた。しかし,今の時代はそういえないということです。これは注目すべきです。
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   そういった世界・社会の状況の中,現在の教育に投げかけられた課題は何なのでしょうか。
 議論の中で言及されているのは,「社会に開かれた教育課程」を目ざす必要があるということ,「教科等を学ぶ本質」を大切にしつつ,それを関連させることでさらなる教育効果を得ること,などです。
 さらに,今年8月の「次期学習指導要領に向けたこれまでの審議のまとめ」では,学校段階別の課題についても指摘されています。
 小学校については,語彙力と外国語教育,中学校については,部活動やカリキュラムマネジメントについて指摘があります。
 これらの教育全体の課題に加え,「全国学力・学習状況調査」の結果などをふまえた国語科等各教科における課題を挙げています。次期学習指導要領での中心的な考え方である,「資質・能力の育成」は,こういったもののうえに成り立っているのです。

資質・能力と三つの柱  
資質・能力と三つの柱
 それでは,「資質・能力」とは何なのか。これについて,前出の「審議のまとめ」等では,「学校教育法」に示された三要素を出発点としつつ,「三つの柱」として提示しています。まず,「何を理解しているか,何ができるか(知識・技能)」,次に「理解していること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」,そして「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びに向かう力,人間性等)」となります。こういった共通する観点から,各教科等の学びを整理し,議論を行っているわけです。
 具体的に国語ではどうなるのでしょう。「知識・技能」には,言葉の働きや使い方についての知識,伝統的な言語文化等が例示されています。「思考力・判断力・表現力等」はは,従来の指導事項に近いものと捉えられるでしょう。「学びに向かう力,人間性等」では,学びをどう生かすか,国語科が目ざす人間性がまとめられています。

教科等の本質に根ざしたの見方・考え方 ※画面をクリックすると別ウィンドウがひらきます。

教科等の本質に根ざしたの見方・考え方



 
教科等の本質に根ざしたの見方・考え方
 「資質・能力」とともに,今回の学習指導要領改訂のキーワードとしてあげられるのが,「各教科等の本質に根ざした見方・考え方」です。これは,「様々な事象を捉える教科等ならではの視点」「教科等ならではの思考の枠組み」であるとされています。国語科でいえば,「言葉を通じた理解や表現及びそこで用いられる言葉そのものを学習対象」とし,「言葉の意味,働き,使い方等に着目して,対象と言葉,言葉と言葉の関係を捉え,その関係性を問い直して意味付ける」こととしています。これは,例えば,説明文の学習が,理科の知識を身につける場とならないよう注意し,あくまで言葉の学びとして意識されるべきであるということになろうかと思います。
 これらに基づき,国語科の目標を,全体の目標と,三つの柱それぞれの目標に整理し,議論を進めているということになるのです。

指導要領改訂と言語活動の位置づけ  
指導要領改訂と言語活動の位置づけ
 こういった形で新しい考え方や言葉が出てくると,これまで盛んに言及されていた「言語活動」などが,今後どうなってしまうのか,疑問に思う先生方もいらっしゃるでしょう。
 もちろん,言語活動を捨ててしまうということではありません。アクティブ・ラーニングを進めていくためには,言語活動が引き続き重要であるという認識のもと,改定が進められています。「国語WGにおける審議の取りまとめ」では,言語活動を通じて,学習活動が行われる必要があることや,言語活動を充実させることの重要性が強調されています。

アクティブ・ラーニングで大切なこと ※画面をクリックすると別ウィンドウがひらきます。  
アクティブ・ラーニングで大切なこと
 さて,ここまでを踏まえて,本日の中心的な議題となる,「アクティブ・ラーニング」について,お話しておきたいと思います。
 「アクティブ・ラーニング」をめぐってさまざまな説明がされていますが,重要なのは,それが「型ではない」とうことです。学習指導要領をめぐる議論でも,たびたび言及されています。「審議のまとめ」では,「学習過程全体を見渡し,個々の内容事項を指導することによって育まれる思考力,判断力,表現力等を自覚的に認識しながら,子供たちの変化等を踏まえつつ自ら指導方法を不断に見直し,改善していくこと」が重要であるとされています。また,国語WGの取りまとめにあるように,具体的な学習プロセスは無限に存在するものだということも確認する必要があります。つまり,「グループ学習をさせればよい」というように,何か形を取り入れれば済むものではないということです。
 前文部科学省教育課程課長の塩見みづ枝氏は,「子供たちが『頭の中をアクティブにして,しっかりと考える』ということ」がアクティブ・ラーニングなのだと述べています。(「教職研修」教育開発研究所,2015年)教師としては,子どもたちが,そのように学習できるように,学習過程を常に見直していくことが大切なのです。子どもたちが一生懸命考える授業をどう実現するか,という取り組みを,アクティブ・ラーニングと呼んでいると考えたい。問題になるのは,主体的で,対話的な,深い学びを実現するために,どう授業改善をしていくか,ということです。「総則」の抜本的な改定も,それに関わる「カリキュラム・マネジメント」も,そのために必要なものなのです。

主体的,対話的,深い学びの本質 ※画面をクリックすると別ウィンドウがひらきます。



主体的,対話的,深い学びの本質 ※画面をクリックすると別ウィンドウがひらきます。
 
主体的,対話的,深い学びの本質
 最後に,アクティブ・ラーニング,すなわち,「主体的で対話的な深い学び」について,それがどうあるべきか,私自身の考えを述べて,シンポジウムへの問題提起とさせていただきます。
 まず,主体的な学びと,対話的な学びをどう捉えるかについてです。重要なのは,「主体的」といっても,単に自分の考えを押し通すものではないということでしょう。教室には,考えの違う他者がいて,その前提に立って学習をしなければなりません。つまり,「主体的」とは,「Aという理由でBという意見をもつ」他者を受け入れたうえで,「Cという理由でDという意見をもつ」という自分の選択をすることなのです。これは直接「対話的」ということにつながってくることになります。
 経営学者の野中郁次郎氏は,日本企業が世界で成功していた背景に,職種や階層の違う他者どうしの対話があったことを指摘しています(野中郁次郎他『知識創造企業』東洋経済新報社,1996年)。何かを生み出すためには,異質なものが対話する必要があり,それこそが対話の価値なのです。

アクティブ・ラーニングと言語活動 ※画面をクリックすると別ウィンドウがひらきます。


アクティブ・ラーニングと言語活動 ※画面をクリックすると別ウィンドウがひらきます。

 
アクティブ・ラーニングと言語活動
 「深い学び」についても言及しておきましょう。学習理論の研究者によれば,学習の「深いアプローチ」とは,振り返ったり,仮説を立てたり,関連づけたりするものだとしています。逆に「浅いアプローチ」は,記憶する,理解する,記述するなどとしています。
 こういった主体的・対話的・深い学び,すなわちアクティブ・ラーニングを,私は言語活動,そして言葉の力との関わりから,次のように整理しています。(左図参照)
 まず,アクティブ・ラーニングは,言語活動によって支えられるものであろうということです。従来からの言語活動はアクティブ・ラーニング的なものです。別のものと考えるのではなく,重なり合い,それを支えるものと考えるべきでしょう。これを,「アクティブ・ラーニングを支える国語の力」とよびます。そして,さらに,「アクティブ・ラーニングが育む国語の力」もあります。能動的に言語活動を展開することで,国語の力が養われていくのです。

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どうやって思考力を育てるか
 
どうやって思考力を育てるか
 アクティブ・ラーニングに関わっては,「思考力」というキーワードがあります。これまでも,「言語活動を取り入れた授業を実践したが,思考力育成につながっているのかわからない」という声を聴くことがありました。思考力について,どのように考えていけばよいのでしょう。
 私は,アクティブ・ラーニングそのものと同様に,「型ではない」ことを確認することが重要ではないかと考えています。あらかじめパッケージ化されたものを繰り返し訓練しても,必ずしも思考力とは結びつくものではない。であれば,「迷子」になることが大切なのではないでしょうか。ここでは「迷子効果」としましたが,子どもたちが,どこかで真剣に困る場面を作らないといけないのではないか,ということです。困ることで,本気で考える,試行錯誤する,その結果何かを生み出す―そんな経験が求められています。
 ここまでが,次期指導要領をめぐる議論と,それについての私の考えです。これらを踏まえ,三人の先生方と,「徹底討論!アクティブ・ラーニング視点の授業展開と評価をどう考え,どう実践するか」ということで,議論を深めていきたいと思います。