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 第10回大会のご報告

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プラスワン教材で子どもの学びを深める―比べ読みの理論と実践
 この講座では,「比べ読み」による主体的な学びを目標とした授業実践例を聞きながら,授業づくりのポイントについて学びます。お2人の先生方の実践報告を通して,副教材を準備する際のポイントや活動展開,評価のしかたなどについて,ご紹介いただきました。

講座の流れを紹介します。
主体的な学びを実現する「比べ読み」  
 
主体的な学びを実現する「比べ読み」
 学習指導要領の改訂,アクティブラーニング,学校教育法の改訂 ――― 。講座は,こんな話題から始まりました。教育法に学力の三要素が盛り込まれたことで,学校教育で養うべき能力が明確に定義されました。しかしながら,力を身につけるための「主体的な学び」の実践は,未だ模索が続いています。本講座では,この「主体的な学び」を実現する手法の一つとして,「比べ読み」をご紹介いただきました。


「読みの三様態」を意識した授業づくり
 「読みの三様態」は,本講座の講師・田中洋一先生が提唱するものであり,「読むこと」の学習課程を三段階に整理しています。「読みの三様態」は,以下の通りです。
  1. 叙述を読む
  2. 叙述を整理しながら読む
  3. 自分の考えをもちながら読む
 アクティブラーニングにあたるのは,この③の段階です。田中先生は,この三様態を明確に意識し,整理して授業づくりをすることが重要だと言います。
 一方で,比べ読みには課題もあります。活動を授業時間内におさめ,かつ子供の負担を増大させないためには,短く,主張が明確でわかりやすい副教材を用意しなくてはなりません。説明的文章では自作教材を,文学的文章では既習教材を,といったように文種によって副教材を使い分けることが有効であると指摘します。

実践事例「動いて,考えて,また動く」  
実践事例「動いて,考えて,また動く」
 具体的な実践事例の紹介として,まずは和泉澤先生から,説明的文章の比べ読みの事例が発表されました。
 主教材「動いて,考えて,また動く」(光村図書・小学校4年)を学習した後,先生の自作教材を副教材として使用し,共通点と相違点を考えながら読みを深める活動が紹介されました。副教材を自作する際の配慮として,
  1. 少ない字数に抑える
  2. 明確な主張が読み取れる文章とする
  3. 児童が自らの経験と重ねて考えられる内容とする
といった点が挙げられました。
 比べ読みを実践するなかで,和泉澤先生は「漠然とした質問になっていないか,不安になる場面もあった。」と語ります。一つの答えに誘導するような発問をせず,児童の発言の良いところをつなぎ合わせながら授業を進めた結果,主教材のみを学習した時点では筆者の主張に染まっていた児童たちが,副教材との比べ読み後には,より深い考えを書くようになったそうです。
 紹介後には参加した先生方から,比べ読みを実践する際の発問のしかたや,児童の発言を生かす方法などについて質問が出されました。

実践事例「星の花が降るころに」  
実践事例「星の花が降るころに」
 続いて,中学校の実践事例として渋谷先生から,文学的文章の比べ読みの事例が発表されました。
 「文学的文章は,副教材を探すのが難しい。」と,渋谷先生は語ります。短く読みやすい教科書教材に対し,副教材としての条件を満たす作品を見つけ出すのは大変な労力です。解決策として,渋谷先生は,小学校の教科書に掲載されている作品を使用するなど,発達段階を下げることで対応していると話します。
 主教材「星の花が降るころに」(光村図書・中学校1年)に対し,「なまえつけてよ」(光村図書・小学校5年)を副教材として使用し,読みを深める活動が紹介されました。渋谷先生は,読みのポイントを一人の登場人物に絞って比較させることで,登場人物への理解を深め,作品全体の理解につなげていきました。これは,文学的文章を読む際に「作品のテーマ」や「作者」を軸とすると,「テーマ論」「作者論」に発展する可能性があり,学習の目的と乖離するおそれがあるためです。
 紹介後の質問は,比べ読みに適した文学作品や,個の時間とグループの時間を有効に使い分ける方法などについてなどが出ていました。

まとめ  
まとめ
 最後に,田中先生から改めて,比べ読みを実践する際のポイントについてお話がありました。
 思考判断の力と主体性を育む実践として行う比べ読みでは,児童生徒に考えさせるための課題設定を慎重に行うべきだと,田中先生は主張します。正答を決めることが目的にならないよう留意し,児童生徒がそれぞれに自分の意見をもつことができる発問をすることが重要です。またそのためには,個の活動とグループの活動を使い分ける必要があります。まず個の活動で読みを深め,次にグループの活動でそれぞれが深めた読みをもとに意見を交換し,最後に個の活動に戻して自分の考えを見直す,という活動がひとつの理想型としたうえで,田中先生は「グループでの活動は,あくまで深めるために行うもの。意見を一つにまとめるような指示は個々の考えを封じてしまう。」と説明しました。グループ活動については質問も多く,参加者は熱心に耳を傾けていました。児童生徒の意見をどう評価すればよいか,という質問に対しては,「到達度評価に,具体的な文章理解を盛り込まないこと。『三様態』における第一段階・第二段階の読みができていて,かつ自分の意見をもつことができれば,及第点(=B評価)をつけるべきでしょう。」というアドバイスがなされました。
 講座の最後には,田中先生から「子どもたちの自由な発想を許容する授業をしてほしい。『先生,僕途中までしか考えてないけどいいですか』と言って手を挙げる子どもが出てくるのが,考えさせる授業の理想です。」との言葉が,参加した先生方へ送られました。

【講師の先生のひとこと】
田中洋一先生  
田中洋一先生
 読むことの指導は,国語の授業の中心的なものですが,子どもたちに充実感をもたせる指導はなかなか難しいものです。今回の講座では,読み深める手だてとして比べ読みを提案しました。参加していただいた先生方は,比べ読みの指導のご経験が少ない方が多かったのですが,その基本的な考え方と,文学的文章・説明的文章の事例をそれぞれ紹介させていただきました。皆さん楽しんでいただけたようです。毎日の授業の充実のために役立てていただければ幸いです。