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 第9回大会のご報告

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調べてみよう,聞いてみよう,書いてみよう―ノンフィクションができるまで
 今年の特別講座は,「絶対音感」や「星新一 一〇〇一話をつくった人」「セラピスト」など,話題作を次々と生み出してきた,ノンフィクションライターの最相葉月さんを講師にお迎えしました。さまざまな人を取材してこられた最相さんに,調べて,聞いて,書いてまとめるための極意を,具体例を交えながら,120分間存分に語っていただきました。

講座の流れを紹介します。
“文学賞の選考を経て



“文学賞の選考を経て
 
文学賞の選考を経て
 私は,2009年から北九州市子どもノンフィクション文学賞の選考委員をしています。国内外から1000通以上の応募があり,小・中学生それぞれ6〜7本選びます。クラブ活動,いじめ,昆虫や動物の飼育記,おばあちゃんの戦争,父親の自死などテーマはさまざまです。そこで出会う子どもたちの作品には,必ず一つは私の知らないことが書いてあり,毎年とても刺激を受けています。例えば東京大空襲のとき,銀座線で遺体を運んだひいおじいさんのお話。銀座線でそんなことがあったとは,その子の作文を読むまで全く知らず,とても驚きました。戦後70年,戦争経験者も少なくなっています。例えば全国の子どもたちが身近にいるおじいちゃん・おばあちゃんの話を聞き取って書くだけで,ものすごい日本の文化遺産になるのではないかと思うことがあります。
 そんな文学賞の選考を経て,子どもたちに,調べて聞いて書くための方法を伝えられたら思い,昨年「調べてみよう,書いてみよう」(講談社)という本を出版しました。今日はそれに沿ってお話しします。

ノンフィクションって何?  
ノンフィクションって何?
 ノンフィクションを中学生向けに定義すると「見たり聞いたり体験したりしたことを,作り話を交えずに表現すること(そのストーリー)」。これを簡略化して大きく2つに分けてみます。
1.自分が体験したこと
 旅行記,冒険記,闘病記,自伝,家族との出来事 など
2.自分の外に題材をとったもの
 飼育記,観察記,伝記,ルポ,インタビュー など
 例えば沢木耕太郎さんの作品でいうと,「1」でわかりやすいのは「深夜特急」,「2」では「テロルの決算」,柳田邦男さんですと「1」に「犠牲」,「2」に「マッハの恐怖」などがあります。ただ,両者の区別は厳格ではなく,中国朝鮮族の友人のことを書いた私の「ナグネ」という本は,自分自身の体験と外の材とを合わせた形になっています。
 さて,ノンフィクションのおおよそを押さえたら,早速テーマ探しです。
テーマを決めよう  
テーマを決めよう
 実は,このテーマが決まれば,半分は書けたようなものです。テーマは読者に一つのイメージを与える「名札」の役割。とても重要です。そんなとき,「何でもいいから好きなことを自由に書きなさい」では,子どもは戸惑ってしまいます。人は制約があるほうが力を発揮できる。例えば星新一の作品には「エヌ氏」「エフ氏」という名称は出てきますが,名前や時代を特定できるものは出てこない。決まり文句を使わない,長くても10数枚といった制約があります。こうした一つの枠組みの中で1001編もの作品を書いています。
 テーマを決めるには問いかけが重要です。
  • 知りたいことはある?
  • やってみたいことはある?
  • 伝えたいことはある?
  • 会って話を聞いてみたい人はいる?
  • 記録に残しておきたいことはある?
それでも決まらないときは――
  • アルバムを見て昔のことを思い出す
  • 散歩してみる(町の史跡,流行の店,ご当地キャラクター,スーパー,建築物 
  • なりたい職業を考えてみる
  • 図書館や書店で書棚を眺めてみる
それでも決まらないときは――

「鳥の目」から「虫の目」「ミクロの目」へ














「鳥の目」から「虫の目」「ミクロの目」へ
 
「鳥の目」から「虫の目」「ミクロの目」へ
 「鳥の目」から「虫の目」そして「ミクロの目」で視点を絞っていくのが有効です。「真鍋博の鳥の眼」というイラスト集(毎日新聞社・1968年)があります。全国のビルに上り,ヘリコプターで飛び,町を歩いて描いたイラストで,例えばこの壮大なイラストから視点を絞っていくと,松山城の天守閣,道後温泉,坂の上の雲ミュージアムなどが浮かび上がります。まず「鳥の目」から「虫の目」になることで,何か見えてくるかもしれません。
 しかし,これだけでは漠然としていてテーマとしては大きすぎます。もっともっと小さい目が必要です。では,次にこの写真は何でしょう。これは脳の神経細胞一つ一つに着色したものです。「ミクロの目」になり,このぐらい寄っていくことで,例えば松山城の床の板はどこから運んだのだろう? 壁の土は? といった問いが生まれてきます。「鳥の目」で俯瞰していたものを「虫の目」さらに「ミクロの目」になることで,見えてくるものがあるのです。テーマとは,広い世界の中で切り取った景色です。解き明かしたい謎,世界をのぞく窓。これが決まれば目的地に向かって歩いて行けます。
◆キャッチコピーをつける
 テーマが見えてきたら,キャッチコピーをつけることをお勧めします。キャッチコピーは目的地であり目印。自分が何について調べていたか確認させてくれるものになります。
 例えば「鳥の目」富士山
     「虫の目」山小屋
     「ミクロの目」トイレの水
     「キャッチコピー」富士山の水は
     一滴の無駄も許さない!
◆企画書を書く
 さらに企画書を書いておくと,見取り図になり,第三者にとっての説明書にもなります。なぜそれをテーマに選んだのか,何を知りたいのか,誰に話を聞きたいのかなど,自分の頭を整理するためにも必要です。このとき,タイトルをつけるとテーマがより明確になります。タイトルは先ほどのキャッチコピーでもかまいません。
調べてみよう











調べてみよう
 
調べてみよう
 企画書ができたら調べてみましょう。まず最初にノートを準備します。特別なものでなくてよく,A4版の大きさのノートに,タイトルとキャッチコピー,調査を始めた日付を書きます。私は3色ボールペンを使い,地の文を黒と青,取材後のメモを赤で書くことで,内容を整理しています。
◆本で調べる
 調べ方にはいろいろありますが,まずは本で調べることが基本です。例えばテーマが「富士山の山小屋の水」だったら
  1. 富士山のプロフィールを知ろう
    百科事典,図鑑,ガイドブック
  2. 体験者の話を読んでみよう
    登山家や山岳ガイドの本(伝記,体験記,対談,インタビューなど)
  3. 詳しいデータを知ろう
    統計資料や記録を集めたデータブック など。
 本や新聞,雑誌,DVDやCDなどデジタル資料,さらに放送ライブラリーを持つ図書館もあります。私はずっとできませんでしたが,レファレンスコーナーで司書や学芸員の方にきくのもとても有効です。ぜひ勇気をもってきいてみてください。
◆インターネットで調べる
 紙の本や新聞,雑誌は複数の人間が内容や文章を確認し,ウラとりをします。校正・校閲の専門家がさらに確認することもあります。私の原稿も,初校・再校・念校とチェックを重ねます。
 これに対してインターネットの情報は玉石混交。なかでも信頼性が高いのは,官公庁や自治体,図書館,博物館,新聞,出版,大学,研究機関,企業の公式ホームページなどです。専門家の個人サイトもありますが,こちらは質が多様で,意見の偏りなどにも注意が必要です。
◆現場に行く・体験する
 行って,見て,触って,嗅いで,初めてわかることがあります。富士山でいえば,高山植物,空気のにおい,見晴らしのよさなど,実際に登ってみなければわかりません。

人に会って話を聞こう  
人に会って話を聞こう
 人に会って話を聞くことで得られることもたくさんあります。
  • これまでの本や雑誌,インターネットなどで調べてもわからなかったことを知ることができる。
  • 相手の容姿,表情,口調(方言),立ち居振る舞いを知ることができる。
  • 自分が調べ足りなかったこと,さらに質問したいことがわかる(まだ謎があったことに気づく)。
  • 次に誰に話を聞けばいいのか,どこで何を調べればいいのかを知ることができる。など
 人に会うには,事前に聞きたいことを箇条書きにする,手紙やメールを書く,電話をかけて会う約束をする,取材当日には早めに行く,録音や撮影の許可を得る,そして話をきく際には沈黙も大事にしながらきく,会った後には礼状を書く,追加質問をきくなど,さまざまなことが必要です。「絶対音感」のときはまず手紙を書いて取材を申し込みました。手紙は全ての出発点です。

さあ,書いてみよう  
さあ,書いてみよう
 伝えたいことは一つです。キャッチコピーやタイトルに戻ってみましょう。キャッチコピーをつけたことがここで生きてきます。
 次に,書くことをとにかく箇条書きで羅列します。そのときに一つポイントがあります。
◆秘伝・自分突っ込みの術
 次のようなことを自分で自分に尋ねて順番を入れ替えてみると,ストーリーとして流れてきます。
  • 何を書こうとしてるの?
  • ふーん,それはおもしろそうね。でもなぜ?
  • 次はどうしたの?
  • へえ,それで? それで? 
  • よくわからないなあ,もう一度説明して!
  • おーっと,そうきたか!
  • なるほど〜,でもこれはどうなるの?
    ……
   長くなるなら「目次」を作るのもいい。
 書きだしが大事です。印象的な書きだしにすることで,まずは人の心をつかむことができます。実際に書くときは,誰の視点で書くか,会話はどうするか,引用や出典はどうするかなどを考えて進めます。
 最後に推敲することが大切です。話の筋道が通っているか,読んだ人が理解できるか,書き忘れたことはないか,文字や内容が間違っていないか,文章に磨きをかける,そして声に出して読むことも有効です。
 推敲後は清書して,第三者に読んでもらいましょう。

実践!キャッチコピーをつけよう  
実践! キャッチコピーをつけよう
 実際に,キャッチコピーをつける実践をしてみましょう。
A先生(テレビを見ていて,同じ血の通った人たちなのにと気になって。)
  1.  「鳥の目」戦争
  2.  「虫の目」シリア
  3.  「ミクロの目」そこに暮らしている人々
  4.  「キャッチコピー」笑顔の生活はあるのか
B先生(さっきお昼を食べに行ったお店で。)
  1.  「鳥の目」お好み焼き屋さん
  2.  「虫の目」客層
  3.  「ミクロの目」物静かなおばあさん
  4.  「キャッチコピー」おばあさん,驚くべきその胃袋
 キャッチコピーをつけると,想像が広がり楽しくなります。ぜひ実践してみてください。

最後に。書くことの意味とは?  
最後に。書くことの意味とは?
 好きだ,知りたい,会いたい,書いておきたいという欲求がスタート地点にあると思います。例えば自分の子どもが二十歳になったときに読んでほしいと思って書く闘病記,同じ病気になった人はどうしているのか知りたいと思って読む闘病記。世界には,書きたい人・読みたい人がいます。
 私自身,東日本大震災のとき,昔の人はこのような多重災害の際にどう対処していたのか強く知りたいと思い,吉村昭さんの「三陸海岸大津波」や柳田邦男さんの「空白の天気図」を手に取りました。
 世界にはさまざまな人がいて,さまざまな人生があり,さまざまな見方・考え方があります。書く人と読む人でこの世界は形作られているのです。ぜひ皆さんの話も聞かせてください。