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 第9回大会のご報告

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アクティブ・ラーニングを意識した授業を考える
 学習指導要領における国語科の教科目標には,「思考力や想像力」を養うことが明記されています。このことは,他の教科にはない特色で,国語科で育てる言語の力が思考力や想像力と直結しているという考えに基づいています。
 しかし現状をみると,国語の授業が児童生徒の活発な思考に裏付けられているかどうかは疑問の余地があります。新しい学習指導要領の方向性も見えてきた今,改めて「子どもが考えたくなる授業」とアクティブ・ラーニングとの関係について考えてみたいと思います。
 今回は,教育心理学者として学習意欲などの面から授業の方法を研究されている鹿毛雅治氏,教科調査官として次回の学習指導要領の改訂をリードする立場にある杉本直美氏,そして,長らく中学校の現場と教育行政に携わり,国語教室の現状に詳しい田中洋一氏にご登壇いただきました。それぞれの研究成果や経験などを交えながら,さまざまな角度からアクティブ・ラーニングとそれを取り入れた授業の在り方などについて議論が展開されました。
国語教育の現状について




図1
  (図1)
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国語教育の現状について
田中 学習指導要領の総則では,子どもたちの言語活動を充実させることと,学習習慣を定着させることを両輪にして,子どもたちの生きる力を育てると書かれています。当然,国語科もそれを受けて,各領域の指導事項に言語活動例が示され,授業が大きく変わることが期待されました。
 学習指導要領が告示されてから7年がたちますが,現実に学校の授業はどうなっているのか,杉本先生からお話をいただきたいと思います。
杉本 私は,小学校,中学校ともに授業改善が確実に図られていると認識しています。
 このスライド(図1)は,全国学力・学習状況調査の質問紙調査です。これは,児童,生徒に「国語の授業で,目的に応じて資料を読み,自分の考えを話したり書いたりしていますか?」ということを尋ねています。着実に授業改善が図られていると感じる理由はここにあります。
 この質問は,課題を発見と充実に向けて主体的,共同的に学ぶ学習,つまり,アクティブ・ラーニングに近いイメージのことを子どもたちに質問しています。小学校は,毎年非常によく今年度も65.3%。なかなか授業が変わらないといわれていた中学校でも,着実に伸ばしていて,今年度は,58.8%となっています。この成果というのは,私はお世辞抜きに,先生方のご努力にあると思います。
国語教育の現状について    現行の学習指導要領は,いわゆる学力の三要素を確実に子どもたちに育成することを目指して,言語活動の充実を重視しました。さらに全国学力・学習状況調査でB問題が提案されたことによって,授業をどう変えたらいいかという具体的なイメージを先生方と共有することができたのではないか思っています。
 ただ,授業自体は,子どもたちも認めるほど,だんだん変わってきてはいますが,学びの質はどうなのでしょうか。「活動あって学びなし」とよくいわれますが,子どもたちに国語の能力がしっかりついたかどうかを確認しているか,いわゆる評価がきちんとなされているのか。そこは非常に気になっている点で,今後の課題となるのではないかと思います。
田中 子どもたちの主体性を引き出すような活動は行われているが,本当に力がついているか,そこが問題だということですね。
国語教育の現状について   鹿毛 私は,国語だけを見ているわけではなくて,子どもの学びという観点から,音楽とか体育とかいろいろな授業について,先生たちと一緒に授業研究をしています。そこで気になるのは,いわゆる「形」で授業をしていることが多いことです。
 先生方は「形の授業」だと思われてはいないかもしれませんが,子どもたちがそう思っている場合もあります。それで何が失われているかというと,コミュニケーションの意味です。肝心の意味が交流されていないのではないかと思うのです。
 最初にめあてを言って,それをまとめるという「形」。それ自体が悪いとは思いませんが,子どもたちを見ていると,めあてもまとめも板書をノートに写す作業になってしまっているのです。子どもの内的な活動としてみれば,今日,自分が何を目指すかという意識が喚起されなければめあてとはいえません。まとめも,本当は自分の言葉で表現すべきところが,先生の言葉になってしまっています。いわゆる形が先行して,意味が二の次,三の次,あるいは,意味がない,というように形骸化している授業があるのではないかと思います。
田中 お二人の話は,かなり共通する部分が多かったと思います。そもそも言語活動は,そのものが形で,中身をいっているわけではありません。学習指導要領に例示されている活動例も,形をいっているわけです。思考させるかどうかは,教師の腕にかかっているわけですね。
 しかし,ともあれ形は整ったというのが,お二人の評価だったのではないかと思います。
 本日の大会テーマは,「子どもが『考えたくなる』授業づくり」です。では,形の整った先にある「子どもが実際に考えたくなる授業」というのは,一体どんなものなのでしょうか。

グループ活動は本当に協働的な学習形態か  
グループ活動は本当に協働的な学習形態か
杉本 私が思う「考えたくなる授業」のイメージの一つに,グループ活動があります。グループ活動は,課題と交流する観点が明確でなければならないということ,これはよく言われることです。
 しかし,私は,グループ活動は,子どもたち自身が,自分のもっている力を発揮する場面だということを自覚していることが大事だと思うのです。既習事項を用いた力を発揮し,活用する場面。ここで生かせるんだということを自覚しながら,グループ活動をすることです。それを意識せずに,言語活動というと,何となくすぐグループでの話し合い活動にしてしまうこと,それが問題ではないでしょうか。
グループ活動は本当に協働的な学習形態か   田中 私は,中学校の現状でいうと,形も整っていないところが半分くらいあるような気がしています。小学校は,かなり形も整っているけれども,本当に考えさせている授業は3割ぐらいかなと思っているのです。
 つまり,小学校と中学校の課題は違うのではないでしょうか。小学校は,形は作りやすいです。小学生は,喜んで活動しています。しかし,その教材で,本当に考えさせるべきところと関係のないところで話し合い活動がされていることが目立つような気がしています。
鹿毛 グループ活動というのは,いちばん難しい教育形態なのではないかと思っています。それは,先生は分身の術が使えませんから,子どもたちに丸投げするような活動になるのですね。先生が本当にグループの中で起きていることを把握するのがすごく難しい学習形態なのです。僕はグループの中で,一人一人がどういう経験をしているのかということに教師が思いを寄せない限り,学びの質は高まらないし,先生の独りよがりで終わるだろうと感じます。
田中 学習指導要領でも,主体的,協働的な学びがキーワードになっていて,協働的というと,すぐにグループ学習,「みんなで話し合いましょう」となりがちですね。
鹿毛 協働的というのは,子どもに協働的活動が起こらなければならなくて,あくまでもグループ活動というのは,その手段なんです。
 一つのやり方をすれば40人が40通り,全部ドミノのように白になるとか,黒になるということは,学びの世界ではありえません。しかし,われわれは教育方法というのを,そういうふうに捉えがちです。現在進行形の授業の中で,われわれのアンテナをどう敏感にしていくかが大事だと思います。

オーセンティックな課題に取り組む必要性  
オーセンティックな課題に取り組む必要性
鹿毛 基本的には,グループ学習であれ,一斉形態であれ,「させる,させられる」という関係になってしまったら,子どもたちは,活性化しません。ですから,現実のわれわれの社会で行われているコミュニケーションと同質のものを提示して,子どもたちのほうからやりたい気持ちを起こさせることが大切なのです。これを教育評価論では,オーセンティックな評価課題といいます。オーセンティックとは,「本物の,真性の」という意味です。子どもたち自身が,切実感をもって,これを言いたい,聞きたいという気持ちを引き出せるようなオーセンティックで魅力ある課題を設定ことが重要です。
杉本 魅力的な課題というのは,考えたくなる授業をつくるのに,いちばんの必須事項ですね。ただ,その課題は,先生が与えるときもあるでしょうし,子どもが,創り出すこともあるだろうと思っています。
田中 総合的な学習の時間では,課題は各学校で定めていいし,指導者が子どもと一緒に決めていいのですが,教科学習の場合には,やることが決まっていますから,その中で,どうやって子どもたちに自分たちの課題意識をもたせるかということはとても難しいと思います。
 例えば,教科書に自己紹介のスピーチ教材があります。「教科書に載っているから自己紹介をやってみよう」という課題設定のしかたは,子どもたちにとってみれば,ただ与えられたものであって,工夫の余地もありません。しかし,「新しいクラスになって2か月たったけれども,学校で見せない顔を紹介して,もっともっと仲のいい友達になろうよ」という目的を一つ出すだけで,子どもたちは,すごく意識が変わってくるんのではないでしょうか。
杉本 それから,現時点の力で解けてしまう,調べてすぐわかってしまう課題も価値が薄いですね。国語の力を身につけ,能力を向上させるのに適していません。子どもたちが,その課題を「解決してよかった」「ちょっと苦しかったけれど,やってよかった」「こういうことがわかったから,次にこういうことを調べたい」などと思う成就感を味わわせるような課題が必要ですね。
田中 子どもたちが意欲や成就感をもてる条件とはどういうものでしょうか。
オーセンティックな課題に取り組む必要性   鹿毛 「意欲」の「意」は,「意志」の「意」。「欲」は,「欲求」の「欲」だといわれています。考えたいとか,話したいとか,聞きたいという気持ちは欲求であって,意欲の片方にしかすぎません。もう一つの「意志」,つまりやり遂げるという気持ちがあってはじめて意欲的といえるのです。それが成就感につながっていきます。
 それを高めるポイントは,おもしろい,もっと知りたいという「興味」。それと,やったことに意義を見つける「価値」です。
田中 「教科書にあるから,この活動をしましょう」というように,先生方も常に受け身で授業に入っているから,いくら話し合いをさせようが,発表させようが本質的には変わらないということでしょうね。
鹿毛 先生もやらされているという感じで,楽しくないのではないでしょうか。例えば,こういう導入をすると,子どもたちがこんなことを言うのではないかなど,想像力を働かせて授業を一工夫していただければと思います。

アクティブ・ラーニングとは何か
田中 アクティブ・ラーニングが次期学習指導要領のキーワードになりそうですが,文部科学省でアクティブ・ラーニングを示している趣旨について,杉本先生にお話を伺いたいと思います。
杉本 アクティブ・ラーニングという言葉は,2014年11月に文科大臣が中教審へ行った諮問に「『何を教えるか』という知識の質や量の改善はもちろんのこと,『どのように学ぶか』という,学びの質や深まりを重視することが必要であり,課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や,そのための指導の方法等を充実させていく必要があります。」と述べられています。つまり,指導法の一例として出てきました。
 2015年8月に,「教育課程企画特別部会 論点整理」がまとまり,育成すべき資質能力の三つの柱を中心に今後,各教科で,どのようなことを教えていくのかという議論が始まっています。
図2
  (図2)
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   そこでは,「何をしているか,何ができるか」のみならず,「知っていること,できることを使って,どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか」ということを教育課程全体で考えることが求められています。そしてそれを身につけるために,アクティブ・ラーニングの視点から普段の授業の改善が必要であろうということなのです。(図2)
 アクティブ・ラーニングは,指導方法の一つとして出てきたという認識でいいと思いますし,私見ですが,言語活動の充実の延長線上にあるというふうにも考えています。
鹿毛 従来われわれは「何を教えるか」を考えていましたが,それよりも,「どのように学ぶか」に転換しなければいけないということです。40人いたら40通りの学びがあるのであって,一人一人の学びに思いをはせましょうということですね。
 さらには,アクティブ・ラーングが,学習の「方法・手段」ということをしっかり認識してもらいたいと思います。一人一人に主体的な学びが起こっているかどうかを見ることが大切なのです。つまり,形から意味への転換が,いよいよわれわれに問われているのです。
田中 言語活動の充実と,アクティブ・ラーニングを取り入れた授業とは,本質的に違うのでしょうか,同じなのでしょうか。
アクティブ・ラーニングとは何か   杉本 文科省が発行している「中等教育資料」に合田教育課程課長が次のような一文を寄せています。
 「ゆとりか詰め込みかの二元論を越えて,言語活動を各教科等の横串として通しながら,思考力等を育んでいく。現行学習指導要領のもと,成熟社会で求められる資質能力を育むための優れた教育実践が全国で開花している。次の改訂に関する議論までは,それをアクティブ・ラーニングと位置付け,深い思考へと子どもたちを誘う工夫をどう全国の教室で共有するかが焦点だ。」
 また,「論点整理」にも,「前回改訂における各教科等を貫く改善の視点である言語活動の充実も,引き続き重要である。」と書かれています。ですので,これまでの流れの延長線上にあるという認識でいいのではないかと思っています。
 ただ,何か違いはないかと問われれば,私見ですが,「論点整理」は,実生活,実社会ということをかなり意識した記述になっています。そして,「深い思考」を求めています。考える場面を授業に有効に組織していこうということだと思っています。
鹿毛 アクティブ・ラーニングが,言語のみならず,非言語的な活動と表裏一体となりながら,コミュニケーションを結んでいくものだと考えると,アクティブ・ラーニングの一つの表れが言語活動だという捉え方は必要かなと思います。
 授業の中で,子どもたちが活動するとき,そこには表現,身振り表情も交えてコミュニケーションします。その中に言語活動もありますが,言語活動だけトレーニングしても,それはあまり意味がない。コミュニケーション全体の中で言語活動を考えていくことが必要です。
 さらに,活動だけアクティブにするのではなく,一人一人の頭の中がアクティブになっていなければなりません。もっといえば,頭だけでもだめで,心も一緒にならなければならない。心理学で,「エンゲージメント」という概念があります。「没頭」という心理状態です。没頭しているときに,パフォーマンスはいちばん高まるんです。没頭しているというのは,ただの頭の中でクールに考えているだけではなくて,「何? 何?」と聞きたくなったり,何かワクワクして言いたくなったりする状態で,それゆえ頭も相乗効果で働くんですね。
 つまり,知情意が一体化しているような心理状態というのが,学びの質を高めるといえます。

アクティブ・ラーニングを意識した授業を展開するために  
アクティブ・ラーニングを意識した授業を展開するために
田中 アクティブ・ラーニングを意識した授業を展開するために,どんな点に注意したらいいでしょうか。
鹿毛 先生方は,どう教えるかということに考えがいきがちですが,そこをどう脱却するのかが課題だと思います。われわれに必要なのは,こういう学習活動をさせたとき,子ども一人一人がどういう体験をするんだろうという想像力だと思います。
田中 思考・判断の授業は,子どもたちが何をどう考えるかを,ある程度予測しないといけないということですね。教材研究をする際には,こういう発問をしたら,子どもたちは,どう考えてどういう思考の経路をたどるかということまで想像していかなければいけないということだろうと思います。
杉本 私は,アクティブ・ラーニングの留意点は,基本的に言語活動の留意点とほぼイコールではないかと思っています。付けたい力と言語活動を適切に組み合わせることが大事なのですが,その際に,意外と抜け落ちているのが,今,鹿毛先生が言われました想像力です。その言語活動で期待される具体的な子どもの姿をどれだけイメージしているかということです。それが子どもにどういう力がついたのかという確認と,評価につながります。
 そして,今後それが実生活,実社会へのアクセスを考え,一歩踏み込んで考えるような場面を授業の中に一層取り入れることが大切です。私はそれを「プラスワン」といっているのですが,教師の工夫とはまさにそれなのだと思うのです。
田中 最後に,これからの国語教育を支える先生方に対して,提言をいただきたいと思います。

社会に対してアクティブな子どもの育成
杉本 アクティブ・ラーニングというと,どうしても課題解決的な学習の部分にだけ目がいってしまいがちなんだと思うのですが,実は,先ほど申し上げた「成就感」ということが非常に大切なのだと考えています。成就感は,子ども自身が自分を評価することにもつながるし,先生方の評価にもつながるし,それは,次の授業づくりということにもつながるのではないかなと思います。
 そのために,社会に開かれた教育課程の実現を通じて,子どもたちに資質能力を身につけることを意識していきたい。社会に対してアクティブな子どもを育てていかなくてはいけないと思います。ぜひ,授業を実生活,実社会,今の学習指導要領でいえば,日常生活,社会生活ということを意識して,つなげていただきたいと思っています。

ポジティブ感情をもたせて,力を積み重ねる
鹿毛 思考力,判断力といわれますが,「何とか力」というのは,ちょっと注意をしなければいけない言葉だと実は思っています。
 私は,英語が大嫌いで,意欲もなかったんですけど,話さざるをえない場面があります。アメリカの大学院の授業では,しどろもどろになるのですが,アジア系の留学生と話しているときは,妙に流暢に話せたという経験があります。このように英語力というのは,相手によって違うし,その場に依存して発揮されるものなのであって,一定の英語力なるものがあるものではないと感じました。同じように,思考力,判断力,表現力もそうです。場や相手によって変わるものなのです。実はその思考している姿,考える姿,表現する姿の,その一瞬,一瞬で力が表れているものなのですね。
 力というのは,それの積み重ねなのです。だから,一朝一夕に付くわけではありません。「考えるのがうれしいな,考えたくなるな」という授業を積み重ねていくと,「何かちょっと書いてみようかな」と思う子どもが育ってくるのではないでしょうか。そうしたポジティブ感情が国語教育を通じて,小・中・高・大と続いてすごく大きな力になるはずなのです。だから,いい姿をどれだけ授業の中で実現するかというのが大事だなと思います。

教材を授業の中に生かせる力を
田中 アクティブ・ラーニングに取り組むためには,まず教師が教材をきちんと読む力,それから教材の価値を理解する力が必要だと思います。
 その教材のどこを捉えれば,子どもたちが自分の考えがもつことができるのか。作者や筆者の言っていることをただなぞるだけではなく,どこで子どもに考えさせるか,自分の考えがもたせるのか。そんなことを常に考えていくことこそがアクティブ・ラーニングにつながっていくのではないかと思います。教師にとっては,教材を授業の中に生かせる力というのが,これから大切なことでしょう。
 どうもありがとうございました。