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 第9回大会のご報告

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「考える力」を育むためには,何が大切か
 昨今,盛んに取り上げられている「アクティブ・ラーニング」。文部科学大臣の学習指導要領改訂に関わる諮問,中央教育審議会の議論をはじめとして,各所で頻繁に言及されています。こうした中で,本日ご参加いただいている先生方のご関心は,「言語活動」と「アクティブ・ラーニング」は違うものなのか,違うとすればどんなところなのか,といったことではないでしょうか。基調講演では,アクティブ・ラーニングが取り上げられるようになった経緯を振り返りながら,そもそもそれがどんなもので,注意すべきことは何なのか,ということについて考えたいと思います。
「考える力」を育むためには,何が大切か  
「考える力」を育むためには,何が大切か
 昨年は,「『なぜ』を大切にする国語の授業」ということで,「問うことの大切さ」についてお話ししました。主体的に問う姿勢の重要性は,本日のテーマ,「アクティブ・ラーニング」にも共通するものです。
 ご自身の経験を振り返っていただいたとき,講義中心の授業よりも,体験したり議論したりする活動的な学習のほうが知識・技能が身につきやすいと思われたことはありませんか。いわゆるアクティブ・ラーニングとはこういった活動的な学習のことですが,先生方の多くは,すでに,「総合的な学習の時間」や言語活動を取り入れた授業の中で,実践されています。
 実は,中教審等の議論の中でも,小・中学校では,すでに,それにつながる授業は多く行われているとされています。であればどうしてこれほどアクティブ・ラーニングが叫ばれるようになったのでしょうか。

今日における教育的課題
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今日における教育的課題
 
今日における教育的課題
 それでは,まず,中教審等で議論されている現代の教育的課題について,整理しておきたいと思います。
 まず,「言語活動の充実」。現場の先生方とお話すると,「言語活動を取り入れているが,それで十分に力がついたのか実感がもてない」という声を伺います。中教審等の議論でも,そういったことが共有されています。次に,高等学校の授業。高等学校では,小中に比べて言語活動に力を入れた授業改善が進んでいないようで,課題とされています。そして,大学入試。高校で授業を変えようとしても,「入試があるから」となってしまう。高校での授業改善の成果をきちんと受け止められるような大学入試にする必要があります。最後に,大学。大学教育が,きちんと学力を育成できているのかが問われています。
 以上のような課題を踏まえると,今後の教育改革を考える上でいくつかの重要なポイントが思い浮かびます。例えば,小中高大までを通して,一体的な改革を行う必要があること。その切り口として,言語活動の充実を図る目的である「学びの質」を高めていかなければならないこと。そして,そのために,アクティブ・ラーニング等の方法を用いること。こういったポイントを重視して、改革が進められているのです。

「アクティブ・ラーニング」とは―文科大臣「諮問」から  
「アクティブ・ラーニング」とは  文科大臣「諮問」から
 さて,それでは,なぜアクティブ・ラーニングが取り上げられるようになったのか,そもそも,アクティブ・ラーニングとは何か,ということについて考えたいと思います。
 アクティブ・ラーニングが盛んに言及されるきっかけになったのは,昨年11月,中教審に対する文部科学大臣の諮問の中でふれられたからでした。この中では,現在の子どもたちの姿として,理由とともに自分の意見を述べることに苦手意識があること,自己肯定感や学習意欲,社会参画への意識が低いことなどを挙げ,そのことから教育基本法の理念が実現できていないとしています。さらに,成熟社会を迎える日本で新たな価値を創造していくためには,一人一人が異なる背景をもつことを尊重しつつ,多様な経験を重ねながら,得意分野の能力を伸ばすことが求められているとしています。アクティブ・ラーニングは,このような社会で求められる「資質・能力」を育む一つの方法として取り上げられているのです。

「諮問」における視点  
「諮問」における視点
 さて,この諮問について考えるとき,さまざまな問いが浮かんできます。育成すべき資質・能力と各教科の役割との関係はどうなっているのか。アクティブ・ラーニングの具体的な在り方やその評価のしかたはどうあるべきか。外国語を使った交流をどうやって盛んにするか。その基底にある日本の伝統文化への理解をどう育成するか。教育課程の編成・実施・評価・改善という一連のカリキュラム・マネジメントについてどう考えるか。新たな学習・指導方法,それに対応した教材や評価の方法をいかに開発するか……

 
アクティブ・ラーニングとは,高等教育の課題であった
 こうした疑問について考えるために,背景となった教育改革の流れについて簡単に振り返り,補助線としたいと思います。
 まず,平成24年,中教審から「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」という答申が出されています。この中に,従来型の「知識の伝達・注入を中心とした授業」に対置するかたちで,「能動的学修(アクティブ・ラーニング)」という言葉が出てきています。そして,具体的に,「ディスカッションやディベートといった双方向の講義,演習,実験,実習や実技等を中心とした授業」という形式が示されています。すなわち,まずは,大学改革の中で,アクティブ・ラーニングなどの授業の形式やそれに対応する新しい評価方法を活用していく方向性が示されたということになります。

高大接続改革に関して  
高大接続改革に関して
 さらに,平成26年に,中教審から「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革について」という答申が出されます。この中では,大学入試が,高校・大学におけるアクティブ・ラーニング等の授業改善によって育成される資質・能力を,適切に評価し生かすシステムとなっていないことが課題とされました。このように,高大接続改革の中でも,アクティブ・ラーニングという言葉が用いられるようになったわけです。

アクティブ・ラーニングと高大接続改革
 では,高大接続改革とは,具体的にどのようなものが想定されているのでしょうか。高等学校では,アクティブ・ラーニングの充実が図られますが,その中で育成された資質・能力を評価する「高等学校基礎学力テスト(仮称)」が導入されます。大学については,これまで曖昧だったカリキュラムの全体像を,基礎・応用・発展という順序性によって明らかにし,多様な学生が主体的に学べるよう,カリキュラム・マネジメントを徹底することが求められています。大学入試については,大学入試センター試験を廃止し,「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を導入するとしています。これは,「思考力・判断力・表現力」を評価する新しい形式の試験とされています。

再び,アクティブ・ラーニングとは―形式・方法か,質の問題か  
再び,アクティブ・ラーニングとは  形式・方法か,質の問題か
 ここで,改めて,アクティブ・ラーニングとは何か,ということについて考えてみたいと思います。文部科学省の用語集では,発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習,グループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等の具体例が挙げられています。そして,前述したように,これらは,すでに教室で取り入れられてきたものです。
 文部科学省の塩見みづ枝前教育課程課長は,こう述べています。「現在取り組んでいただいている『言語活動』や,総合的な学習の時間における『探究的な学習』や体験学習などは,ただ受動的に先生の話を聞いて覚えるだけのものではなく,まさに,子供たち自身が主体的・協働的に学ぶ学習です。これらも当然,『アクティブ・ラーニング』の一つの形態であると思います。」(『教職研修』教育開発研究所,2015年)
 つまり,諮問で述べられているアクティブ・ラーニングというのは,子どもたち自身が,意識をもって主体的・協働的に学んでいく姿を表現しているものなのです。そしてこの「アクティブ」というのは,「活動していればよい」ということではなく,子どもたちが,頭の中をアクティブにしてしっかりと考えているということなのです。大事なことは,形ではなく,「本当に考えること」「頭を活性化させること」だと思います。塩見氏は,別の媒体でも,「型にはまるのではなく」ということを繰り返し述べています。
 新しい方法が出てくると,どうしてもそのやり方に注目がいきます。しかし,あくまで,「学びの質」「指導方法の質」が問われていると考えるべきです。さらにいえば,「思考力・判断力・表現力」の育成が重要であることは変わりません。

諮問により問われたのは 画面をクリックすると別ウィンドウがひらきます。
 
 
 
 
 
 
 
 
諮問により問われたのは
 
諮問により問われたのは
 ここまで見てきたように,問われているのは「学びの質」の改善であり,その成果を正当に評価する方法の開発です。アクティブ・ラーニングが十分取り入れられていないと思ったとき,ともすれば単純にその形態を導入すればよいということになりがちです。しかし,重要なのは常に「質を高めるために,形が大事になる」という意識をもつことだと思います。アクティブ・ラーニングという言葉を用いているのは,小学校から大学までの一体改革のスローガンとしてであり,あくまで重要なのは,教育の質を高めていくという目的です。
 新しい指導要領の検討が始まっています。大学入試改革の具体像もこれから明らかになってくるでしょう。重要なキーワードは,「思考力・判断力・表現力」「協働的な学び」「子どもが真に考える学習」そういったものになってくると思います。国語でいえば,言語活動を通して,質の高い学びを目ざす,ということになるでしょう。
 こういった改革は,単に,授業改善の枠を超えて,カリキュラム・マネジメントというカリキュラム全体の改善,そして,教員養成・研修などの改革にもつながってきます。
 先生方もこれから,さまざまな形で,授業の改善に取り組まれることと思います。大事なことは,子どもたちから,主体的に学ぼう,考えようという姿勢を引き出すことです。これまでも日常的に行ってこられたことだと思いますが,それをさらに自覚的に行っていただき,常に学びの質を問い直していくことが重要でしょう。