line decor

 第8回大会のご報告

line decor

「4つのハテナ」で,想像力のスイッチオン!
 今年の特別講座は,ジャーナリストとして,また,市民グループや学生,子どもたちのメディア制作のアドバイザーとして幅広く活躍されている下村健一先生を講師にお迎えしました。情報に踊らされないようにするために,私たちはどうあればいいのでしょうか。具体的な事例をもとにしながら,中学生になったつもりで「想像力のスイッチ」を働かせた120分間となりました。

講座の流れを紹介します。
“私とメディアとの関わり  
 
私とメディアとの関わり
 私は,1985年から25年間,TBSで報道アナウンサーをしていました。初めの15年間は社員として,その後10年間はフリーの立場で番組に携わりました。2010年から2年間は,内閣広報室で,政府の言葉を国民のみなさんに分かりやすく伝える仕事に就きました。2012年10月に任期を終え,現在は,さまざまな大学でメディアについて教えています。
 今日はメディアリテラシーの話ですが,タイトルにある「4つのハテナ」の話をする前に,TBSの社員として最後のレポートとなった「ニュース23」の特集部分を,みなさんに見ていただきます。
 TBSで15年間,報道局アナウンサーを務めた最後のメッセージとして私が選んだのは,カナダにある「メディアリテラシー」という教育カリキュラムをみなさんに伝えることでした。当時,「メディアリテラシー」という言葉は,日本ではまだ認知されていませんでした。しかし,「メディアを鵜呑みにしてはいけない」というメッセージは,自分も明日からは視聴者の側になるという,この最後の日にしか言えないことだと思い,取り上げることにしました。(TBS「ニュース23」下村先生最後の出演回を視聴。)
ポジティブなメディアリテラシーを  
ポジティブなメディアリテラシーを
 カナダでメディアリテラシーが発展したのは,アメリカと国境を接していることに一因があります。強烈に流入してくるアメリカの文化にカナダのアイデンティティが押しつぶされてしまわないよう,「これはアメリカの考え方だ」と受け止められるようになる必要があったのです。つまり,防波堤として,メディアリテラシーの考え方・教育カリキュラムが発展しました。
 しかし,カナダのメディアリテラシーをそのまま日本にもち込んでも,ちょっと日本の風土とは合わない。としたら,日本には日本流のメディアリテラシー,つまり,防御ではなく,もう少し前向きなメディアリテラシー教育があっていいのではないかと,私は考えました。
 特に3.11以降,日本では,メディアに対する不信感が高まりました。以前は,「テレビで言っていた」ということが信用の根拠になっていましたが,今は,「テレビで言っていたから信じない」という人が一定の割合でいます。しかし,そのような人たちが,インターネット上の情報を信じていたりもします。そんな状況だからこそ,ますますポジティブなメディアリテラシーというスタンスが,今,必要になってきているのではないかと感じます。
メディアの見方を教わったことは?  
メディアの見方を教わったことは?
 では,ここからみなさんは,中学2年生になってください。これから質問をしますので,考えてみてください。
 では,第1問です。
次のことに,1日どれくらいの時間をかけていますか。――食事をする/道を歩く/メディアを見る
 どれがいちばん多かったですか。私は,10年近く,この質問を授業の初めにしていますが,一度の例外なく,いちばん時間を費やしているのは「メディアを見る時間」となります。
 続いて,第2問です。
食事のしかた,道の歩き方,メディアの見方について,ちゃんと教わったことがありますか。
 どの学校で質問しても,「メディアの見方についてちゃんと教わったことがある」という人は極端に少ないです。いちばん時間を費やしているのがメディアを見る時間なのに,その見方はちゃんと教わったことがない。これでいいのでしょうか。

「情報の見方」が大切なのは,なぜか  
「情報の見方」が大切なのは,なぜか
 メディアから発信される情報には,時に,悪意のある情報や,悪意はないけれど自然にあるイメージを植え付けてしまうものがあります。それらに注意を払ったり,正しく受け止めようとしたりすることは,とても大切です。
 情報は,空間的にも時間的にも,広がりに終わりがありません。また,トレーサビリティもないため,一度流れると,どこまで広がったかを追跡することはできないし,その情報を得た全員に続報や訂正を流すこともできません。さらに,情報の発信が何年も前でも,時を経て再びその情報にアクセスする人は必ず出てきます。もし誤報が植え付けられてしまったら,「これで解決」という状態になることはないのです。だからこそ,情報の受け止め方・見極め方は非常に大切になってきます。
 では,どうすればいいのか。多くの子どもたちが,「自分には知識がないから,その情報が嘘か本当か分からない」と言います。残念ながら,メディアリテラシーの授業の多くが,「嘘か本当かを見極めよう」「真実かどうかを見極めよう」ということを結論にしていますが,そうではなく,知識がなくても情報に踊らされないように,メディアや情報とどのように関わるとよいかを子どもたちに伝えなければなりません。
 そこで,これから,そのための「4つのハテナ」をお話しします。
第1のハテナ:事実かな・印象かな?  
第1のハテナ:事実かな・印象かな?
 第1のハテナは,「事実かな・印象かな?」です。これは,事実と意見をいっしょにして,鵜呑みにしないようにしましょう,ということです。言い方を変えれば,情報Aの汚れを拭き取りましょう,ということです。Aという情報の表面には,伝え手の意見やもっている印象などが,「汚れ」としてくっ付いています。その汚れを拭き取って,ちゃんと事実を見るようにすることが大切なのです。
 例えば,大会紀要に示した「疑惑のAはこわばった表情で,記者を避けるように裏口からこそこそと立ち去った。」という文から,「印象」に当たりそうな言葉を取り去ってみましょう。すると,「Aは裏口から立ち去った。」という文になります。どうですか。元の文では,Aは怪しそうな人物だと感じられますが,この文では全然怪しそうではないですね。これが「事実」です。こうやって,事実と印象を分けるだけでも,情報に踊らされなくなります。ここで大事なのは,何の予備知識ももっていないということ。自分の眼力だけで,事実と印象を分けるのです。
 しかし,事実だけにすると,「味気なくてつまらない」という意見が出てきます。確かに,ノンフィクションの本でも,事実だけが淡々と記述されていたら,その本を読もうと思わないかもしれませんね。印象を取り除くことによって,事実にまで興味がなくなってしまうこともあります。
 つまり,意見や印象は,食べやすくするための調味料なのです。意見や印象は,「食べやすくしてほしい」という受け手側の要望に応えるために発信者が行う工夫といえます。これからもずっと,情報は,意見や印象と事実とがセットで出続けるでしょう。なぜなら,そのほうが食べやすいから。だからこそ,意見や印象を事実と混同せずに受け取ることを身につけなければならないのです。
第2のハテナ:他の見方もないかな?  
第2のハテナ:他の見方もないかな?
 情報を見るときに,第1のハテナを働かせたら,何が事実かが分かるようになりました。でも,それが事実だとしても,他の見方はないのでしょうか。これが,2つ目のハテナです。
 意見や印象などの「汚れ」をきれいに拭き取って,事実がよく見えるようになっている情報Aを,このペットボトルに見立てましょう。ペットボトルを底から見ると円形に見えますが,まっすぐ立てれば別の形に見えますし,斜めにすれば,さらに違う形に見えますね。きれいな事実でも,見方や角度によって見え方や意味が変わってくるのです。
 では,順序や角度や立場を変えることで,事実が全く違って見えてくる実習をしてみましょう。
他の見方もないかな?

















他の見方もないかな?
  ①順序
 ここに,「人が走っている絵」と「犬が走っている絵」があります。「人が走っている絵」「犬が走っている絵」の順に提示された場合と,逆の場合では,それぞれ,どんなストーリーが思い浮かびますか。たった2枚ですが,全然違うストーリーを思い描いたのではないでしょうか。
 普段私たちが見るニュースには,何百枚もの絵があります。しかし,百枚なら百枚の絵を同時に見せることはできないので,どうしても,ある順番を決められ,提示されます。その順番に,視聴者はイメージが支配されてしまうのです。
 たった2枚でも,順序を変えるとストーリーが変わるということを,印象として覚えておいてください。
②角度
 「いじめの相談が去年より増加した」という事実があったとしましょう。これを聞いた第一印象として,いいニュースだと思いましたか。それとも,悪いニュースだと思いましたか。…ほとんどの方が悪いニュースだと思ったようですが,いいニュースだと思った方も何名かいました。このように受け止め方が変わるのは,角度の問題です。
 このニュースを悪いニュースだと思った人たちは,「いじめが増えた」と受け止めたんですね。でも,いいニュースだと思った人たちは,「相談の窓口が増えた」とか「これまで相談しなかった人が相談するようになった」などと受け止めたわけです。こんなシンプルな文章でも,ちょっと見方を変えるだけで,いいニュースにも悪いニュースにもなるのです。
③立場
 これは,「逆リポーターごっこ」をお勧めします。強制的に自分を逆の立場に置いて,そこからどう見えるかを考えるものです。例えば,私が朝の情報番組のキャスターをやっていたとき,「人里にサルが出た」というニュースがありました。中継が終わって,CMまで余った10秒をつなぐよう指示が出たのですが,みなさんがキャスターなら,このニュースの立場を変えて「それはこういうふうにも言えますね」と,どんなふうに言いますか。
 私は,「サル界のニュースでは,サル里に人が出たって言っているでしょうね。」と言いました。サルがいたところを人が宅地開発して住むようになったのですから,サルから見れば,「サル里に人が出てきた」ですよね。
 このように,ちょっと立場を変えてみると,一つの出来事が,事実は何も変わらなくても全然違う姿で見えてきます。何かニュースを見たら,意識的に立場を変えてみる。そうすることで,いろんなことが見えてくるようになります。

第3のハテナ:何か隠れていないかな?









第3のハテナ:何か隠れていないかな?












第3のハテナ:何か隠れていないかな?
 
第3のハテナ:何か隠れていないかな?
 ここまで,2つのハテナについてお話ししました。でも,まだ十分ではありません。見方が偏らなくなっても考えなければならないのは,隠れているものがないか,ということです。それが3つ目のハテナです。1つ目のハテナで意見や印象が取れ,2つ目のハテナでいろいろなことが見えるようになっても,それは,その情報に対してのことです。もしかしたら,その情報の外のことが見えてくると,元々の情報の見え方も変わってくるかもしれません。だから,スポットライトが当たっていない,周りをよく見ることが大事なのです。
 この3つ目のハテナがないと,みんな,スポットライトが当たった部分だけを全てだと思って,物事を考えてしまいます。それを今から,実例で体験してみましょう。
 今から,半分だけ見えている図形をお見せします。全体がどんな形か,想像してください。
 これは,ある図形の左半分が隠れています。なんだと思いますか?(会場から「円」という声が上がる) では今度は,ある図形の右半分が隠れています。これはなんだと思いますか?(会場から「正方形」という声が上がる) そうですね,みんな自然に「円」「正方形」と思いますよね。見えていない半分を,想像しているわけです。しかしこの図形,本当はこんな形だったりするわけです(円の右半分と正方形の左半分がくっ付いた図形を提示する)。
 見ていないことは,分かりません。でも,見えているものが全てではないと思うことが大事です。子どもたちとも,いろいろな例で考えてみてください。見えていないことは何かを想像させると,子どもたちはたくさんのことを発言します。そのとき大事なのは,どんな発言が出てきても「そうだよね」と受け止めることです。
 さて,ここまで考えてきて分かると思いますが,スポットライトには副作用があります。事実を伝えていても,ある面を切り取ると,意味が歪んで伝わることがあるということです。ここに作用しているのは,「送り手の癖」と「受け手の癖」です。
 送り手には,起こったことしか伝えないという癖があります。起こらなかったことにはふれないんですね。ここには,悪意はありません。いっぽう,受け手には,見えているもので全体を断定してしまう癖があります。見えている部分から全体を想像する力は,普段はあったほうがよい能力です。
 しかし,悪意のない送り手の癖と,普段は便利な受け手の癖があるとき重なって,勘違いが自動発生してしまうことがあります。このような情報のキャッチボールのエラーは,日々発生しています。情報化社会になって,このようなエラーの可能性は増える一方です。だからこそ,スポットライトの当たっていない暗闇に隠れているものを想像したり,他の見え方を考えたりする必要があるわけです。
第4のハテナ:まだわからないよね?  
第4のハテナ:まだわからないよね?
 このように見てくると,みなさんの心の中に,自然に,4つ目のハテナが浮かんできているのではないでしょうか。視野が広がれば広がるほど,自然にこう思いませんか。「まだわからないよね?」
 これが,4つ目のハテナです。つまり,結論を即断するなということです。よくあるメディアリテラシーの結論では,「真実を見抜け」といいますが,真実を見抜くには知識が必要で,難しい。でも,この4つ目のハテナは「保留すること」ですから,今日からすぐに行うことができます。保留せずに,結論を急いでしまうと,私たちは,「正義の味方」の名前で加害者になってしまう恐れがあることを忘れないでいてほしいと思います。
 私たちは,例えば一つの問題について,ある立場をとった人に,すぐにレッテルを張る傾向があります。レッテルを張ってしまうと,私たちは対話ができなくなってしまいます。今,これは本当に危ないところにきています。原発再稼働,TPP,消費税増税など,これから国論を二分するような難しい問題があるときに,「あの人はああだ」と決めつけてしまっては,そこから先,対話はできません。いつまでたっても結論の出ない日本社会になってしまいます。そんな社会でいいのでしょうか。よくないですよね。だから,結論を急がずに,「まだわからないよね?」と立ち止まることが大切なのです。
情報に踊らされないようにするために  
情報に踊らされないようにするために
 メディア情報に踊らされないために,4つのハテナで示したのは,このようなポイントでした。
  • 意見や印象を鵜呑みにするな
  • 一つの見方に偏るな
  • スポットライトの周囲を見よう
  • 結論を即断するな
 一度に4つは難しいでしょう。まず,4つ目だけスタートして,だんだん1つ目から3つ目を身につけていきましょう。
 子どもたちは,「4つのハテナをいちいち呟くのは大変だよ」と言います。でも,本当にそうでしょうか。この講座の初めに質問した問いの2つ目を思い出してみてください。食事のしかた,道の歩き方については,「よく噛め」「好き嫌いするな」「左右を見よう」「飛び出すな」などを教わっていて,みんな知っていると言っていましたよね。ただ,情報の見方は知らなくて,「これから身につけるのは大変だ」と言いました。でも,本当に今から身につけるのでしょうか。実はもう,みんな知っているのではないでしょうか。
  • 意見や印象を鵜呑みにするな  「よく噛め」
  • 一つの見方に偏るな  「好き嫌いするな」
  • スポットライトの周囲を見よう  「左右を見よう」
  • 結論を即断するな  「飛び出すな」
 矢印の右側が無意識にできているのだったら,左側も,できるはずです。想像力のスイッチをちょっと入れれば。
 メディアリテラシーは,暗い考え方ではありません。情報の被害者にも加害者にもならないで,「思い込み」という小さな窓枠を壊し,もっと広い景色を見よう。これが,日本式のポジティブなメディアリテラシーだと,私は思っています。
 ぜひ,今日から早速,メディアの情報に踊らされないための4つのハテナを使っていってほしいと思います。