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 第7回大会のご報告

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ことばの力
 仕事の主流は言葉を文章として表現することです。身辺雑記のエッセイから,私小説やSFなどたくさんのはなしを紡ぎだす物語作りにいたるまで表現の方向はさまざまですが,自分がそのとき思ったことを文章にする技術は同じです。そういうことを三十五年にわたってほとんど毎日のように続けてきました。文章を書くということは,あくまでも自分の頭の中で考えていることを表現しているわけですが,たくさんの言葉,文章に触れることがなければ,文章表現の技術は育たないということでもあります。自分がそういった表現力をどう育ててきたか,どう生かしてきたか,といったあたりを話したいと思います。
はじめに−言葉や文字は変化していく  
 
 
 
 
 
はじめに−言葉や文字は変化していく
 
はじめに言葉や文字は変化していく
 言葉や文字を仕事にしているんですが,あるときは,それらはすごい力を出しますね。その人の話し方とか表現の仕方などによって相手に伝わる言葉や文字はいろいろ変わるものだと思います。そこで思うのが,言葉は案外あっさりと変わっていくということですね。例えば,大学生は,先輩や後輩を「1コ上」とか「3コ下」とか数えますよね。歳を何か豆ツブみたいに1コとか3コと数えることに違和感をもちます。あとは,「ハンパない」という言い方。あれが気持ちわるい。「ハンパ『じゃ』ない」と「じゃ」をつけろ,と。それから不必要に丁寧に言われるとなんだか本気で言ってないなと思うこともあります。レストランやコンビニなどのマニュアル言葉というのですかね。「こちらトマトジュースになります」の「なります」がわからない。だって,すでにトマトジュースなのに。
 言葉って日常聞き流しているけれど,若い人は使っている言葉が変わっていっていることに気がつかない。言葉が時代と共に変わるのは仕方ないことなのかもしれない。ただ,言葉をきれいに,きちんと使うというのは,人間的な魅力でいうとすごく大事なことだと思う。人として,2,3階級上に見えますよ。ぐちゃぐちゃな話し方されると5割落ちます。我々物書きは文字で伝えているので,その人の話し方とか,例えば方言とかは文章にあらわれないので,これからどうなっていくのだろうかと考えたりしている。
日本が世界に自慢できること  
 
 
 
 
 
 
日本が世界に自慢できること  
 
 
 
 
 
 
日本が世界に自慢できること
 
日本が世界に自慢できること
 今日は,言葉ではいい足りないところがいろいろ出てくると思うので,言葉よりも強いもの,はっきり見える写真の力に助けてもらいながら,話を進めてみたいと思います。
 世界中に行っていつも感心するのは,子どもがよく働いていることです。いろいろな働き方をしています。そういう中で日本は,小さい子どもをとてもよく守っている。日本のいいところの一つです。でも,これは判断が難しい。子どもが働いているのは,貧しかったり,学校がなかったりするからなどということもある。働いている子どもがイキイキしているという事実もあります。
 日本がいちばん自慢できることは,「水」ですね。「国民皆(かい)水道」といいますが,どこにいっても蛇口をひねれば飲める水が出てくる。こんな国は他にない。これはたいへんありがたいことです。日本には,35,000本ほどの川がある。外国にも川が多いところはありますが,その水が必ず飲めるとは限らない。そして,日本の川は全部国有。これも珍しいですね。ただし,川のサイズは小さい。信濃川で400キロ未満。世界的には小川クラスです。例えば,ナイル川は8,000キロ,アマゾン川は7,000キロ以上で,実際の長さはよくわからない。僕が,源流から下流まで行った川だと,メコン川で4,200キロ。源流はチベットの氷河からで,雲南省を通ってタイ,ミャンマー,ラオス,カンボジア,ベトナムを流れている。国際河川といいますね。川の中に国境がある。これは下流の国に流すものに気をつけなければならない川の形態なのです。日本は,幸せなことに自分の国に川が流れている。でも,あまり幸せすぎると幸せなことに気づかないんです。公害病などによって,自国の人が自国の人を傷つけることが起きることがあります。
 日本は,秋の台風や,梅雨時の雨で水供給があって水循環ができている。ノルウェー,インドネシアもそう,あとは,カナダとブラジルが水にストレスがないといわれている。それ以外の国は,みな明日の水さえも心配している状況です。その数,30億人ですよ。
 それから,日本は夜が自慢できます。外国の客人があって,夜,町を歩いていたら,彼らが「我々のガードマンはどこにいるのか?」と言います。「いない」というと,不安そうな顔をしていました。僕が,ナイロビに行ったとき,夜,レストランの帰りに仲間のバッグがひったくられ,あっという間に逃げられてしまった。日本のように生ぬるい夜に慣れていると,実は,猛獣のいるブッシュの昼よりも都会の夜の方が怖いんですね。
 僕が自宅の仕事場にいると,夜中の二時三時に坂を歩いているヒールの音がする。女の人で,しかも携帯電話で話しているようでした。こんなことしていたら,外国なら簡単にひったくられてしまう。でもそういうことがないと安心しているんでしょうね。日本の夜はまだ安心だから。
 水と,夜と,子どもたちの安全,不当労働に関する管理ができていることと,それから,日本はトイレが自慢できますね。町で困ることないでしょう。至る所でトイレが借りられます。そして,きれいに掃除されています。ウォシュレットとかもついていることがある。これは世界的にみて,すごいことなんです。
 しかし,あのようにハイテク化にいきすぎると,弱者に冷たいというシステムでもあります。世界中のトイレは基本システムがある。コックを押すか鎖を引っ張る。しかし,日本のトイレは「ハイテク」ですから,流すスイッチが全く違うところにあったりする。そうすると視覚障害を持つ人などはどうしていいかわからない。点字があるとか音声で知らせるとかなら別ですが。こういうのは順序が逆。まず弱い人に対してわかりやすいのが本当でしょう。つまり,日本のトイレはハイテクを自慢できるが,ソフト面については問題がありそうです。
マーモット狩りをしているネパールの少女 マーモット狩りをしているネパールの少女


チベットの僧院。ツァンパだんごを作っている チベットの僧院。ツァンパだんごを作っている


世界中の異文化−たくさんのスライドから  
 

少年と彼が撃ったカリブー 少年と彼が撃ったカリブー


モンゴルのナーダム。350人,24キロの直線レース モンゴルのナーダム。350人,24キロの直線レース


メコン川のトロ場でナマズを捕る メコン川のトロ場でナマズを捕る


 
世界中の異文化たくさんのスライドから
 お持ちいただいたスライドからエピソードをご紹介いただきました。ここでは,抜粋して紹介します。
 これは,ネパールのマーモットをとっている少女。ダムニャンという楽器をしょっている,自分で作ったそうです。毎日がキャンプですから。旅をしていると,こういう子にはよく出会います。よく働くと親は言っていました。

 チベットの僧院の子どもの僧。鍋の中はツァンパだんごといって,大麦粉にヤクの乳をまぜてこねます。僧がこねて,巡礼者に返すと,お経がたきこまれたありがたいものになる。

 カリブーを撃ったところ。銃を持った少年は14歳。下はツンドラ。よく昔話で,おじいさんが獲物を撃つというのはうそです。おじいさんは撃たない。撃つのは少年。おじいさんは指示を出す。少年は,300か400メートルを全力疾走して,瞬間息をとめて仕留める。老人には体力的にできない。彼らは一時間たってから解体して生肉のまま食べる。エスキモーは「生肉を食う人」という意味で,これは蔑称といわれて,イヌイットとよぶ人たちがいる。「人間」という意味で,ずいぶん違います。でも,彼らは,自分たちをエスキモーといいますね。
 このとき僕は,森林限界を実感しました。北緯66度以北は森林限界。彼らはアザラシを食べますが,燃やす木など生えていないので肉を焼けない。だから生で食べる。そのためにビタミンがこわれないまま摂取することができて生きてきた。それは逆に我々は生で食えないということになりますね。
 カリブーには3キロくらいの胃袋があって,それを切ると,カリブーの食べた苔のおかゆみたいなのが出てくる。それを肉になすりつけて食べるのです。僕も試しましたがさすがにけもの臭がしまして。ただ,一ヶ月もすると慣れましたね。

 モンゴルのナーダム。毎年落馬して子どもたちが何人か死んでしまう。それでも「この行事を経ないと男じゃない,女じゃない」といわれて行われています。
 ところで,モンゴルでは花の名前をきいてもだれもしらない。花は動物が食べないから興味がない。動物独特の危険察知本能があるからのようです。僕の家にときどきモンゴルのお客さんが来ますが,花が飾ってあると,「なんでこんなことをするんですか」と不思議がる。世界にはいろいろな価値観がありますね。

 ラオスの10才ぐらいの子どもたちの仕事。トロ場という水の動かない場所へ行って,10メートルくらいもぐって,50センチくらいのナマズをついてくる。遊びながら家の手伝いをしている。それが家族の夕食になるのです。キラキラしたいい目をしていました。日本の子どもたちがみると逆にうらやましいのではないでしょうか。ここには,アトピーや花粉症がない。それは寄生虫のおかげなんです。外からのばい菌を排除するんだそうです。僕は,ケミカルな病気にかからないように,「1年生から6年生までは回虫をもつこと」なんて言いたいですね(笑)。サナダムシがいちばん強力。一日20センチのびる。ライアル・ワトソンというカナダの自然科学の学者は,探検に行くときサナダムシをのんでいったそうです。戻ってきたら駆除すればいいんですから。

アボリジニのところにお世話になった。持っているのは,夕食のスナトカゲ アボリジニのところにお世話になった。持っているのは,夕食のスナトカゲ


ワニの子ども。このくらいの大きさが食い頃 ワニの子ども。このくらいの大きさが食い頃


人食いナマズ。まだ小さい方 人食いナマズ。まだ小さい方


   さて,「文字や言葉」。僕が,あらゆるレトリックを駆使しても伝えきれないものを,写真を通して,皆さんにお伝えしている。筋は通りますね(笑)。文字を書いていてもうつむくようなことがたくさんあります。これを見せればいいじゃないか,ということが多くて。

 アボリジニのところにお世話になりました。蛇だらけで怖かったですね。これは,この人たちの主食のスナトカゲ。僕は,ステーキは,ベリーベリーレアで食べますが,このときはよぅく焼いてくれと頼みました。寄生虫が怖いので。

 これはワニですね。このくらいが食い頃なんですよ。料理は,背中から真一文字にひらきます。皆さんも手に入ったらそうしてください(笑)。

 これはベレンの河口でとれた人食いナマズともいわれる(実際には食べないだろう)。ピライバーというナマズ。これでまだ小さい方ですね。大きいのは300キロあります。一匹捕れば,半年暮らせると言っていました。アマゾンってそういうところなんです。

 最初水の話をしたので,加えてお話しします。バーチャルウォーター,見えない水の話です。牛丼を半分残すとします。それは,そこまで育てた牛にかかった水のある部分を捨てるということになる。だいたい200リットルくらいの水を無駄にすることになる。だから残してはいけない。

本当のアイスプラネット  
 
 
 
アイスプラネット アイスプラネット
 
本当のアイスプラネット
 最後の写真になります。カナダの北極ですね。光村図書の中学2年の教科書にこの「アイスプラネット」が出ています。現地の人もなかなか見られません。これを見ると幸せになれるっていうので,みんなカヌーで出てくる。僕も写真を撮りに行きました。
 てっぺんまでビルの十数階くらいの高さがあります。この旅をしているときに何泊かする必要があって,「それなら,左側のつばのようなところにテントはったらいいのでは」,と言ったのですが,現地の人は,「それは運による」と言いました。しばしば,これがある時なんの前触れもなく回転するんだそうです。だから寝ていたら,あっという間に海底800メートルくらいのところに行っちゃう。やはり,現地の人にちゃんと聞かないと命が何個あっても足りません。
 この短編を書いたことがきっかけで,春に同じく『アイスプラネット』(講談社)という中学生向けの新刊が出るんです。僕には,昔読んだ吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』が頭の中にあって,それで学び始めた経験があった。それに似たような形なんですが,いそうろうのおじさんが旅の話を中学生のこどもに説いていく小説なんです。なかなか我ながらいい本になりました。覚えていてもらえればと思います。
 今日はありがとうございました。