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 第6回大会のご報告

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シンポジウム/小中9年間の指導計画を見通して,授業をどうつくるか
 今回の学習指導要領国語は小・中の関連性を重視し,指導事項や言語活動例を系統的に示しています。母語を学ぶ教科である国語科は,各段階で新しいことを学ぶというより,すでにある程度できることを徐々に高度化していく学習であるという特色があります。小・中9年間の指導計画を見通した授業づくりの在り方について,3人の先生方に,それぞれの専門の立場から語っていただきました。
はじめに(田中洋一先生)  
はじめに(田中洋一先生)
 国語科教育の小・中9年間の一貫性,連続性ということが,この十年間,とくに強調されてきています。各地で小中一貫校がつくられたり,小中一貫カリキュラムが作成されたりしていますが, その中でも国語科は,内容的に他教科とはちがう難しさがあるようです。
 本日は,小・中9年間の指導計画を見通して,国語科の授業をどうつくっていくか,ということについて,具体的な教材に触れながら,3人の先生方にお話をうかがいます。
 京野先生には,小・中学校の現場に近い立場から,また特に,長く教鞭をとられていた小学校の立場からお話しいただきました。
子どもの姿から学びの種を見とる(京野先生)  
子どもの姿から学びの種を見とる
(京野先生)
 子どもたちの何げない問いからスタートする学びを土台にして実践を行ってきました。その中で,私たちが教えたいと思っていることと,子どもが何を学びたがっているかということには"ずれ"があるということを痛感しました。
 そこで,秋田大学附属小学校勤務時に,「資質・能力表」を作成し,子どもの実態を見ながら繰り返し指導して定着を図ることにしました。これによって,学校全体で共通理解を図り,6年間で国語の力を付けていくことができました。このように,まずは子どもの姿から学びの種を見とり,付けたい力の共通理解を図っていくことが大事だと思います。
観点・思考方法・指導技術の系統を組み合わせて考える(京野先生) ※画面をクリックすると別ウインドウがひらきます。  
観点・思考方法・指導技術の系統を組み合わせて考える(京野先生)
 私は,「読むこと」に関して,読みの「観点」と,読み取ったことをどう考えて課題解決するかという「思考方法」,それから,子どもの学び合いを生かして一人一人の学びを組織する「指導技術」の三つの層を考えています。「資質・能力表」を作成した後,それぞれの層を組み合わせて,どの単元で,どの力を育てるのか,ということを整理したことがありました。そうすることで,子どもの活動する姿を見ながら,今がどの時点で,どんな力を育てているかということがよく分かるようになりました。
 一方,教科書教材も,子どもの活動を通して見ると様々な見方ができます。教材がもつ可能性を,無限に引き出すような教師の教材研究力も必要になってくるのではないでしょうか。

 冨山先生には,学習指導要領を作成された立場から,また特に中学校の立場からお話しいただきました。
9年間を見通す学習指導要領 3つのポイント(冨山先生)  
9年間を見通す学習指導要領 3つのポイント(冨山先生)
 今回の学習指導要領では,小・中・高を通して系統性が見えるようにということを考えてきました。学習指導要領解説国語編の付録に,指導事項と言語活動例の一覧表が載っています。ここに,小・中9年間の指導計画立案のための3つのポイントがあります。
 1点目は,指導事項と言語活動例を一覧できるようにして,系統性をもって見られるようにしたこと。
 2点目は,どのように指導を高めていくのかという発展性が分かること。
 3点目は,小・中の橋渡しがうまくできるように,小学校5・6年と,中学校1年の段差がフラットになっていること。
 これらのポイントを意識して,9年間の見通しをもっていただきたいと考えています。
小・中学校の先生が同じことを言うこと(冨山先生) ※画面をクリックすると別ウインドウがひらきます。  
小・中学校の先生が同じことを言うこと
(冨山先生)
 小・中連携がうまくいくための鍵は,一言でいえば,小学校と中学校の先生が同じことを言う,ということです。
 例えば「読むこと」では,書かれている内容が分かるだけでなく,自分がそれについてどう思うかという考えをもたせること,さらに他の本も読んでみたいと思うようにさせることが重要です。これは,小・中学校を通して一貫した学習指導要領の考え方であり,授業のポイントです。
 そのうえで,特に中学校の先生にお願いしたいのは,「小学校の既習事項を思い出させることから授業を始めること」と,「"中1リセット"の克服を意識すること」です。中学校で初めて行う指導事項や言語活動はほとんどありません。中1で一度リセットして一から学習を始めるのではなく,小学校の内容を踏まえて中学校の学習につなげていくことが非常に大切なことです。

 森山先生には,ご専門の言語の分野と,京都教育大学附属幼稚園長をされていたので,幼児教育の立場からもお話しいただきました。
言語の習熟には,心の育ちが深く関わっている(森山先生))  
言語の習熟には,心の育ちが深く関わっている(森山先生)
 私たちは一生を通じて言葉に習熟していきます。生活の中で,言葉をいろいろとやり取りして,社会に生きる言葉の使い手としての力を高めていく必要があります。そのように,「習熟」ということを考えますと,9年間の学びの中で,子どもたちそれぞれの発達の違いを見とることも大切だと思います。
 例えば「ごんぎつね」を読んでいく場合には,「視点」が非常に大事です。「ごん」「兵十」それぞれの視点を理解するには,ある程度,心の育ちが必要です。心の育ちと国語科の読み取りなどは深く関わりますので,小中9年間の学びを見通す際にも,そのことを意識したいと思っています。
心を育てなくては,物語を読むことがなかなかできない(森山先生) ※画面をクリックすると別ウインドウがひらきます。  
心を育てなくては,物語を読むことがなかなかできない(森山先生)
 例えば「走れメロス」で,メロスはただ疲れて動けなくなるだけでなく,「ああ,もう,どうでもいい。」「私は醜い裏切り者だ。」と居直ってしまいます。そのような人間の面白さを感じたり,読んだ後で主体的に作品と関わっていったりするためには,やはりそれだけの心の育ち,道徳性の発達が必要なのだと思います。
 また小学生では,一つの言葉をそれぞれの文脈の中で適正に読み取っていく力がどうしても弱いということがあります。どの時期にどの力が弱いのかをおさえて,それぞれの教材を通して,小・中の各学年で子どもの力を伸ばしていくことが重要です。


 フロアとの質疑応答です。
フロアとの質疑応答です フロアとの質疑応答です フロアとの質疑応答です フロアとの質疑応答です  
フロアからの質問
  • 京野先生が,「観点」「思考方法」「指導技術」という三つの視点に目を付けられた理由はなんですか。また,9年間の計画を作るうえで,繰り返し指導するということをどう位置付ければよいか,教えてください。
京野先生
 子どもが,言葉を根拠にして自分の意見を伝える場面で,「ここにこう書いてあるから,こうだと思います」のように,根拠と結論しか述べないことが多くはないでしょうか。できれば,根拠と結論の間をつなぐ思考の道筋を表現できるように育てたい,そしてその思考が他の子どもの思考とどう関わるかまで考えさせたい,と思いました。そこで,根拠を見つけるための「観点」と,そこからどう考えたかという「思考方法」,それが他の子とどう関わっているかを結びつける教師の「指導技術」,この三つがあって初めて授業が成立するのではないかと考えました。
 先ほど,「資質・能力表」についてお話ししましたが,このような系統表を整えて授業で扱えば必ず定着するというわけではありません。子どもの姿を見て検証しながら,何度も繰り返し指導して定着を図っていくということが最も大事なことだと考えています。

フロアからの質問
  • 学習指導要領の系統は,どのような理論もしくはデータに基づいて作られているのでしょうか。
冨山先生
 結論から言うと,発達の理論等に基づいたものではありません。これまでの学習指導要領の指導事項を見直して,当該学年にふさわしいかどうか,小中9年間の系統性が図れるかどうかという考え方で,吟味を重ねました。一方で,学習過程ということを意識して,指導事項の見出しとなる言葉を決めていきました。

フロアからの質問
  • 国語科で言葉を習得していくということと,心の理論とをどう結びつければよいのか,もう少し詳しく教えてください。
  • 子どもの発達と学習の系統性ということを合わせて考えた場合に,個人差と発達段階による差とを,教師はどう見極めればよいでしょうか
森山先生
 どの学年でどのような力を身につけているべきか,といった観点と同時に,個々の子どもたちの育ちがどうなっているかを見る視点をもつことが非常に重要です。
 個人差については,全体での働きかけと,個別での働きかけの両方を行う必要があります。特に全体での働きかけの際には,活動を通じて子どもたちがお互いにやり取りをする中で,学びを深めていくことが大切です。
 関連してつけ加えますと,言語のインプットの力,アウトプットの力を育てるときには,個別のワーク学習のようなものが大事だと考えています。漢字の学習や短文づくりなどは,必ず一人一人が取り組む時間をつくらないと身に付きません。個別的に関わる取り組みというものも大事にしていきたいものです。

 最後に,現場の先生方に期待することを,うかがいました。
具体的な言語からのアプローチを(森山先生)  
具体的な言語からのアプローチを
(森山先生)
 例えば,作文の中で「しかし」と「ただし」のどちらを使うかなど,接続詞の使い方を考えることが,一つの思考の流れをつくっていくことにつながります。このように具体的な言語からのアプローチが大切であり,小・中学校の先生方が,どの言葉を,どの段階で,どのように学ばせるかということについて,具体的に考え交流することが必要です。
 ただその時に,学校文化の違いがあることをふまえたいものです。子どもたちが育っていく環境や,教師のコミュニケーションのあり方が異なるわけですから,小中の接続期にそれらの違いを相対化するために,相互の先生方の交流が大切なのだと思います。
「いま」が9年間の中でどの位置づけにあるのか(京野先生)  
「いま」が9年間の中でどの位置づけにあるのか(京野先生)
 子どもの学びの姿から指導内容を発見していくことと同時に,教師がそれぞれの教材と毎回新しい出会いをしていくことが大切です。その時の子どもの姿に応じて,その時の教材から新たな価値を引き出すことができると,9年間で育てる内容が非常に豊かなものになるのではないでしょうか。
 いま教えようとしている単元が,9年間の中でどんな位置づけにあるのか,そしてその中で,いま,何を育てようとしているのか,という自覚をはっきりさせる,そのうえで,目の前の子どもに対していくということが,小中9年間を見通した授業をつくるうえで,非常に重要だと考えています。
本当に力が付いたのかということに厳しくありたい(冨山先生)
 
本当に力が付いたのかということに厳しくありたい(冨山先生)
 同じ「竹取物語」でも,小学校の時に出会うものと,中学校で出会うものとは,感じ方・学び方は変わってくると思います。目の前にいる子どもたちがこの教材とどう出会うだろうということを考え,小・中の指導事項の系統とをうまく結び付けて,魅力的な授業をつくることが,これからも大切なのです。
 そして,その授業で本当に力が付いたのかということに対しては,厳しくクールに見ていかなければなりません。そのためには,やはり学習評価が必要だと思うのです。学びから逃走してしまう子どもが増えてきたと言われるいま,9年間を見通して,すべての子どもに力を付けていくために,学習評価を見直さなければなりません。そのことを,いま強く感じています。
まとめ(田中先生)  
まとめ(田中先生)
 どの学年でどのような内容を学ばせるかという枠組みと,目の前の子どもの特性をよく見ること,その両面から授業をつくることが必要です。それぞれの教師がその考え方を生かしていけば,自然に連続性や一貫性が担保されるのではないでしょうか。
 また,冨山先生が最初にお話しくださったように,とにかく小・中の教師が同じことを語りましょう。そのために,小・中の教師同士が同じ場で勉強して,さまざまなレベルで共有を図る必要があります。
 これらのことが,9年間を見通した授業づくりのポイントだと思いました。本日はどうもありがとうございました。